弟の戦争 ロバート・ウェストール

弟の戦争Gulf

ロバート・ウェストール(Robert Westall) 著
原田勝 訳
徳間書店 HP 1995.11

トムの弟アンディは、変わった子どもだった。突然なにかに引きつけられて、他のことはなにも考えられなくなってしまう。アイスキャンディの棒、石、おばあさん、警察官、新聞の写真……時も場所も理由も関係なく、それは突然やってくる。

呪い師の時は、新聞社や大使館にまであたって居所をつきとめアンディは手紙を送った。呪い師の名前はアンディが勝手につけてた名前と一緒だった。そして占い師からの返事には、トムだけのアンディの呼び名が書いてった。フィギス君へ。

そして1990年、イラクがクウェートに侵攻し、フィギスの中にラティーフという少年が入り込んでくる。

おどろいた。フィギスがある種の超能力者で、遠く離れた人の気持ちがわかってしまうという設定は一見突飛な気がするが、読んでいるとそうは感じない。それより、その設定は見事なまでに戦争を読み手の心に届け、物語を作り上げている。
爆撃の音も、泣き叫ぶ声も聞こえない。死体もない。だが、戦争はそこにあり、感じることができる。

戦争を扱ったウェストールの他の作品以上に、戦争を描いた作品と言えるかもしれない。

フィギスの面倒を見てくれるラシード先生は、トムにだけフィギスの状態を話し、面会を許す。それはトムがフィギスを理解しているという事もあるのだろうが、両親は事実を直視できず傷つくだけだという深い洞察力があるのだろう。辛い事実から傷だけではなく成長を勝ち取るのは子どもの特権かもしれない。

フィギスの中にいるラティーフはアメリカを憎いと思い、敵を撃ち殺したいと思っている。その敵はトム達家族にもつながる。トムは自分達の国が行っている攻撃に対してやるせない気持ちになるが、イラク空爆に拍手喝采をおくる父親がそんなフィギスを見れば混乱し傷つくだけだろう。

だからといって、父親が戦争賛美の愛国主義者というわけではない。夢中でテレビを見ながらイラクへの空爆を支持する父親はとてもいい父親で魅力的なのだ。トムは父親が大好きで、父親の辛そうな顔を見るといたたまれなくなってしまうほどだ。

終りは他の作品同様にあっけない。どこかに投げ出されてしまったかのような不安定でいごこちの悪さ。だが、それが現実だ。トムは思う。フィギスは自分達の良心だったのだと。

ウェストールのイラク空爆に対する怒り、テレビを見ながら狂喜する人への憤り、ブラウン管の向こうのイラクの子ども達に対する沈痛な思いが痛いほどに伝わってくる。

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